手招きの理由

数週間前の有馬にて。
車椅子に座る父が私を手招きして、
小声で言う。

普段でも脳梗塞の後遺症で聞き取りにくいのに
小声やからよけい何いうてるかわからん。
ただ、なんかわしの大事なものがある場所を示唆している様子。
とりあえず、
「うん、分かった」と適当に流す。

そして、昨日、
「あれ、あったやろ?」と父。
「あれって何?」
「ほらこないだいうてた・・・」と小声になる父。
「えっ?」
「カードや、カード、郵便局の・・・」
あ〜〜〜〜分かった。
ゆうちょBKのキャッシュカードのことやったんやと、ここでわかる。

「あったやろ?ほれ、帳面と一緒に。」
「帳面ちゃうがな、通帳やん。あったで。」
「あれ、お前が預かっておいてくれ。」って気前のええこという父。

預かってくれっていうても
あれ18,000円やで。入っているのん。
18万でも入っていれば病院代にもなるけど・・・・と思うが、
「うん、分かった。預かっておくわ。」というておく。

そう、その最初の小声で示唆したとき、
「この前なぁ、血液検査をしてん。ほんでレントゲンもとった。」というていた父。
ふ〜んって聞いていたが、
うそかほんまか?と思いつつの私。

したら、6月分の請求書に外来診察レントゲン代として計上されている金額があり
あ〜〜このことかと思う。
お父ちゃん、頭ん中、まだまだしっかりしているやんってほくそえむ。

っで、特にその結果報告の話もないし
別段何も問題がなかったのやと思っていたら金曜日、
長男の高校に向かう駅までの道で病院から電話。

翌土曜日に出勤の主治医と面談の約束をする。

半年前、昨年の秋に原因不明の発熱で大騒ぎした一か月。
その時のレントゲンの結果を踏まえ、今回のレントゲン検査。
そして、その結果。
相変わらず、胆のう壁があつく、腺筋症の疑いと
悪性腫瘍の疑いはありつつという話。
他にも胆石やら膵臓に水泡やら前立腺も少々肥大やら・・・・
あれこれ言われる。
しかし、この病院は療養型医療機関ということで
詳細な検査はできないので、
今後、どうされますか?と毎回同じことを聞かれる。

え〜〜〜だからいうたやん。
メンタル面で新しい環境になじむのに時間がかかるし
今、ここではええ感じに過ごしているから
ここでできることをお願いしますと。

これが50代や60代の父なら
あちこちの病院を転々としてと思うが
この11月で83歳。
本人は、特に痛がらず不調を訴えることなく、
誤嚥の危険性を回避しての粒状の三度の食事も毎回、ほぼ完食。
お茶碗一杯のおかゆなんて
娘も私も、これだけでお腹いっぱいになるよなぁ〜という量を
ぺろっと平らげる。

そして何より、
屋内生活2年で真っ白けになったほっぺたはほんのりピンク色と血色もよろしい。

人間80年も生きてきて、
ワンカップ大関を愛飲しタバコもすぱすぱやっていた父にて、
それぐらいはしゃ〜ないのとちがうか。
何もないほうがおかしい。

本人は、
「あ〜〜祇園祭りやなぁ。お前、いったんか?」とこの季節、
祇園祭りに天神祭りと続くのに心躍ってはる。

いつもより30分ほど遅れての私の登場に
「えらいおそいやんけ!」と叱咤。
「ちゃうやん、この前、レントゲン撮ったやろ?あの結果報告で先生と話しててん。」
「何もなかってんやろ?」
「うん、何もないって。ほら去年、熱だしたやん。あれがあるから
時々は調べてくれはるみたいやわ。」で本人納得。

そりゃそうやろ、つい最近までまだ自転車で走るつもりでいてたぐらいやし、
祇園祭りも行きたいわなぁ、
天神祭にも行きたいわなぁという思いは
しっかり歩いている。

それでも、長時間の車椅子はしんどいらしく
ごはんがすんで歯磨きをしたら
ベッドにあげてくれという。

救いなのは
ずっと病院生活なのに、テレビと私がもってくるネタだけで
頭の中は年相応のぼけ具合程度ですんでいること。

思うに、ええようにいうたら前向き、
平たくいうと能天気な性質のほうがボケへん?

そして二人で
「管もええ加減にやめろよなぁ」とテレビニュースに映る
首相に毒づく。
こうして時事問題(あいつが悪いとか、あれは辞めやなあかんとか程度)で盛り上がる父娘。

そうそう、先週は私の小学校のときからの友達が一緒に有馬に行ってくれた。
最初は思い出せずにいたが
途中でその友達の独身時代の職場(父の職場:工場の隣やった)から友達のことも思い出した。
頭、さえてるやん!お父ちゃんてなことで
お見舞いに来てくれたことを喜んでいた父なのである。
この辺りはかわいいわな。

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